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「人間文化研究叢書 4 ノーマン・M・ナイマーク『民族浄化のヨーロッパ史 : 憎しみの連鎖の20世紀』(山本明代訳、刀水書房, 2014年)合評会」

マンデーサロン 2014年11月17日(月)

講師 : 山本明代先生 奥田伸子先生 松本佐保先生 平田雅己先生

テーマ : 「人間文化研究叢書 4 ノーマン・M・ナイマーク『民族浄化のヨーロッパ史 : 憎しみの連鎖の20世紀』(山本明代訳、刀水書房, 2014年)合評会」

今回のマンデーサロンに参加した理由は二つありました。まずは、最近観た映画のうちで最も印象に残っている『最愛の大地』(監督:アンジェリーナ・ジョリー)が、ボスニア紛争中の性暴力の根絶をテーマにしていたからです。この映画は、友人、隣人として仲良く暮らしていた人々が、ある日突然、攻撃しあうという内容であり、まさに民族浄化を描いていました。その民族浄化を今回のマンデーサロンでは学問的に考察している書籍の合評会であることに興味があったからです。二つ目は、現在、受講している山本明代先生のアメリカ社会論が取り扱っているマイノリティ、差別、ジェンダーなどの理解に役立てたいと思ったからです。

今回のマンデーサロンでは、山本先生が翻訳された図書を解説されたが、ヨーロッパの民族浄化というあまりなじみのない内容にもかかわらず、冒頭に翻訳された動機や出版の意義を説明されたので、導入部分の理解がしやすかった。さらに先の東日本大震災で避難を余儀なくされている事例を民族浄化や強制移住と比較して解説いただいたので、民族浄化が遠くヨーロッパのみで起っている問題ではなく、それぞれの背景こそ異なるものの、日本においても類似の被害の問題を抱えていると指摘いただいたことで理解が進んだ。

今回の受講を通して、私には地元の事例として岐阜県の徳山ダム建設事業に伴う農村地域から地方都市への政策的な人々の移動が民族浄化の強制移住と重なって映った。徳山ダムに関しては、本書でいう民族浄化が異質な集団を排除するという定義には該当しないものの、住み慣れた土地を離れざるを得なかった点では共通している状況で、故郷を追われた方々がその後の人生を豊かに過ごしておられるかは疑問が残るところです。
いずれにしても、今回のマンデーサロンに参加してヨーロッパの民族浄化の理解に近づくことができたことは私にとっては大きな収穫でした。

交告(こうけつ)俊夫(人文社会学部 科目等履修生)

マンデーサロン

土屋有里子准教授 「文学表現に見る日本人の他界観」

マンデーサロン:2014年10月20日

講師 :土屋有里子准教授

テーマ: 「文学表現に見る日本人の他界観」

現代日本人である私たちは無意識のうちに他界観というものを持っている。それが具体的な世界でなくとも、私たちは死後の世界があることは認めていると思う。今回の土屋先生のご報告は、このような日本人の他界観が形成された過程を、文学表現から読み解こうと試みた、とても興味深いものであった。

ご報告では、『古事記』『万葉集』『日本霊異記』『今昔物語集』『往生要集』といった様々な書物を用いられ、そこに描かれている他界観を時代に沿って紹介された。八世紀の書物である『古事記』には死後の世界である黄泉の国の話がある。そこには黄泉の国が地上の坂の向う側にある世界のように描かれており、日本古代の平面的他界観が読み取れる。しかし、現代人は平面的他界観を持っていないだろう。その理由は仏教の影響が強いからだという。仏教的他界観では上には浄土があり、下には地獄がある。この仏教的他界観が日本古代的他界観に入り込むことによって現代に通じる他界観が形成されていったらしい。質疑応答では世界の宗教との比較はどうなのか、といった世界的視角からの質問が出た。だが、日本文学の分野で仏教以外の宗教との比較研究はまだ進展しておらず、将来の課題らしい。

歴史上、仏教が日本に与えた影響は数えきれない。現在になっても日本のあらゆる場所で仏教の影響を見ることができる。今回のご報告は日本の歴史を読み解くには仏教は外すことのできない要素であることが浮き彫りになった有意義なものであった。

手嶋大侑(本学研究科博士前期課程院生)

マンデーサロン

ジェームズ・バスキンド先生「江戸初期のキリスト教の改宗者・棄教者、不干斎ハビアンの日本思想史上の位置づけをめぐって」

マンデーサロン 2014年9月29日(月)

講師 : ジェームズ・バスキンド先生

テーマ : 「江戸初期のキリスト教の改宗者・棄教者、不干斎ハビアンの日本思想史上の位置づけをめぐって」

今回、バスキンド先生の講義を通じ不干斎ハビアンの生涯と思想的変遷を知り、私には2つのことについての思いが去来しました。

1つは、ハビアンの主著である『妙貞問答』の中でも問題となるキリスト教的な立場である神を中心とした絶対的な「有」の立場と、仏教の主張する「無」・「空」・「因縁」などを内容とした相対主義の立場との争いについてです。この古くて新しい問題は今も現実世界の中で、様々な現象を呈しているように思います。例えば、現在の経済におけるグローバリズムに対しての、国際政治におけるウクライナ問題やイスラム問題というような、グローバリズム対ローカリズムの対立現象としてなど。

私自身、経済のグローバリズムが生む格差や貧困や、そうした現象を正当化する新自由主義的思潮に対する素朴な疑問を感じ、その疑問についてのヒントが得られないかと日本仏教の歴史の研究を志向し、仏教の原理的な点での相対主義・寛容主義が、多くの争論の場における平和的解決に資するのではないかと今は感じています。バスキンド先生を紹介する新聞記事の中でも述べられていましたが、「自」と「他」・「絶対」と「相対」についての寛容的立場が必要ではないかと感じた次第です。

今1つは、ハビアンが晩年に著した『破提宇子』の中で、『妙貞問答』における当初の思想的立場を破棄し、反キリスト教に向かうこととなった晩年のハビアンの心境は如何なるものであったのか。老境となり、人は人生に何を感じるのかということについての興味です。そうしたことを考えさせてくれた有意義な講義でした。

高田 諭(本学人間文化研究科前期課程院生)

マンデーサロン

林浩一郎専任講師「多摩ニュータウン開発の構想と現実―実験都市の迷走とある生活再建者の苦闘―」

マンデーサロン 2014年7月28日(月)

講師:林浩一郎 専任講師 (地域社会学)

テーマ:「多摩ニュータウン開発の構想と現実―実験都市の迷走とある生活再建者の苦闘―」

研究者とはどうあるべきかを考えさせられる内容であった。
今回の報告を担当した林浩一郎先生は、多摩ニュータウン開発を事例として、開発の利害関係者に焦点を当てた研究に精力的に取り組んできた経緯がある。彼ら一人ひとりの人生を紡ぎ、その生きざまを紐解くライフヒストリーという手法を用い、「開発の意味は何か」を解明していくのが、林先生の研究スタイルである。

今回は特に、多摩ニュータウン開発によって農地を奪われ、転職を余儀なくされた人物に焦点を当てた報告であった。近年ではニュータウンの高齢化が進む一方、民間事業者が団地のリノベーションに乗り出し、ここに若年世帯が入居する動向が新聞等で伝えられる。しかし、半世紀前にさかのぼると、ニュータウン開発によって先祖代々の土地を召上げられながらも、多摩地域の発展のために開発を受け入れ、翻弄された人々が確かに存在したのである。彼らの犠牲のもとに開発が進み、現在の多摩ニュータウンが存在する歴史を看過してはならない。

丹念な資料分析に基づき、また度重なるインタビューに裏付けられた林先生の報告は、開発に人生を左右された人物の軌跡を克明に描き出し、圧巻であった。私事にわたるが、執筆者は大学院時代の恩師から学術研究における「人間味のある視座」の重要性について、日ごろから指導を受けてきた。今回の林先生の報告を通じ、一研究者としてあらためてこの点を痛感したしだいである。

三浦哲司(本学准教授)

マンデーサロン

三浦哲司准教授「姉妹友好都市トリノ―都市再生のあゆみと地区自治の展開」

マンデーサロン 2014年5月26日(月)

講師:三浦 哲司 准教授(地方自治論)

テーマ:「姉妹友好都市トリノ―都市再生のあゆみと地区自治の展開」

現代社会学科のホープ、新任・三浦先生のご報告は、楽しいながらも、深い射程をもっていた。イタリアの地方自治制度を踏まえながら、自動車産業の企業城下町から観光都市へと変貌していったトリノの展開を簡潔に描いて見せた。都市計画家市長による都市再生戦略は、産学官連携、新しい都市計画や住区再生を行い、トリノオリンピックを梃子に、見事に「都市再生」を果したという。

むろん、何をもって「都市再生」とするかという問題はついて回る。「都市再生」は、しばしば地区の貧者を排斥し、富裕化(ジェントリフィケーション)をはかる危険性をはらんでいる。イタリアブランドを掲げて突っ走った「観光都市」トリノは、産業技術・人材の断絶という問題を孕んでいるのではないか。それは、日本の企業城下町「再生」のモデルとなるのかと、フロアからも疑問が呈された。

すぐさま日本の都市とトリノを比較するのは拙速かもしれない。しかし、三浦先生の故郷・夕張のように、日本において脱工業化しようとする(せざるを得ない)企業城下町の観光都市戦略は、なぜ斜陽に向かうのか。第二次東京オリンピックを控え、スカイツリー開発に「成功」した東京城東の「都市再生」は、いかなる展開を遂げるのか。観光戦略を、地方自治制度・地区自治と組あわせながら考察する三浦先生のご研究は、大変意義深く、考えされられるものだった。

林 浩一郎(本学 人文社会学部 現代社会学科 専任講師)

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