Archive for 11月 26th, 2006

松本佐保助教授「日露戦争と黄禍論の言説――日英関係における人種問題をめぐって――」

マンデー・サロン 2006年11月6日(月)

テーマ:「日露戦争と黄禍論の言説――日英関係における人種問題をめぐって――」

講師: 松本佐保助教授

マンデーサロン11月6日に開催されたマンデー・サロンは、黄禍論についてであった。私にとって、興味深かったのは、日英関係における人種問題を日露戦争の経過とイギリスの国際的状況から発表された点であった。

私は以前から人種差別問題に興味があり、黄禍論に興味を持っていた。ドイツ皇帝Wilhelm2世が「黄禍」を広めたといわれているが、実際には彼は下絵を描き、宮廷画家にあの有名な絵(1895)を描かせた。そのタイトルには、「黄禍」という語はなかった。“yellow peril”という言葉はアメリカで生み出されたという文献も読んだことがあるが、はっきりしないようである。その語の発生はともかく、「黄禍」というスローガンが与えた影響は大きく、容易にアジア系アメリカ移民は差別の対象となった。イギリスでは1822年に、リチャード・マーチン議員の活動により、「畜獣の虐待および不当な取扱いを防止する法律(マーチン法)」が成立した。ウマ、ロバ、ラバなどがその法律の対象とされた。しかし、イギリスは植民地において、人間を畜獣以下に取り扱った。アメリカで、マジョリティであったイギリス系アメリカ人は奴隷制度を長期に渡り実施し、アジア系移民を安い労働力として特に危険な作業に従事させ、今日の発展を遂げた。畜獣を保護する一方で、人間を搾取していた当時のイギリス系の人々をどのように理解したらいいのであろうか。

9・11以降、「宗教の違い」がクローズアップされている。宗教の違いは確かにあるであろう。しかし、secularな私は、経済的や政治的な要因が様々な問題を大きくしていると感じている。古代から、人間は未知なものに対し恐怖心や羨望を抱き、学者や時の指導者は何らかのスローガンを打ち出してきた。一旦生まれたスローガンやステレオタイプ的観点は一人歩きして、想像も出来ない方向に向かうこともある。たとえ、そのスローガンが国際的に否定されても人々の心の中には残像が存在する。今は情報源が多岐に渡っているが、判断するのは人間である。「黄禍論」研究はテロ対策、北朝鮮(DPRK)問題にも関与する研究であると感じた。発表者である松本先生の博士論文のテーマは19世紀の宗教と国際問題とのこと、次回は宗教の観点からのお話を伺いたいと思いました。

房岡光子(同研究科研究員)