Archive for 12月, 2009

松本佐保准教授 「民族・宗教・共生―プロテスタントとカトリックの 歴史的和解・北アイルランドのテロの終結について」

第31回 サイエンスカフェ 2009年12月20日(日)

テーマ: 「民族・宗教・共生―プロテスタントとカトリックの 歴史的和解・北アイルランドのテロの終結について」

講 師: 松本佐保准教授

毎月恒例となっているサイエンスカフェ、2009年の締めくくりは松本佐保先生による「民族・宗教・共生―プロテスタントとカトリックの歴史的和解・北アイルランドのテロの終焉について」でした。12月の厳しい寒さのなか当日は18名の方々がお集まりくださり、和やかな雰囲気で講演はスタートしました。

北アイルランドでは長年にわたってカトリックとプロテスタントの間で紛争が続いていましたが、昨年ついに両者の歴史的な和解が実現しました。今回は、その和平成立にカトリック教会とヴァチカンが果たした役割に注目し、和解に至るまでの経緯をご講演頂きました。 はじめに、イギリスの植民地であったアイルランドの歴史やキリスト教におけるカトリックとプロテスタントの関係を丁寧に説明してくださり、北アイルランド紛争の背景に存在する問題まで深く理解することができました。その後、北アイルランドで起きたカトリックとプロテスタントとの争いを1988年の和平成立、さらに昨年のカトリック系とプロテスタント系両政党による連立政権の誕生まで時代を追って見ていきました。個人的に興味深かったのは、なんとか成立した和平を守るために、カトリックの信者たちがプロテスタントの教会を訪問して、お互いにコミュニケーションをとる機会を教会が提供しているという点です。松本先生もおっしゃっていましたが、紛争の原因となった宗教が今度は和平を維持するための重要な役割を担っていることに宗教というものがもつ意味の深さを感じました。

そして、講義終了後の質疑応答タイムでは多くの方から鋭い質問が投げかけられるなど活発な意見交換が行われ、互いに理解を深める大変貴重な時間となりました。

 中島 眞吾(同研究科博士前期課程)

「COP10 と環境まちづくり」シンポジウム

「COP10 と環境まちづくり」シンポジウム

標記シンポジウムが2009年12月19日午後、人文社会学部棟1 階会議室で行われた。COP10が来年10月に愛知・名古屋で開催されるのを前に、人間文化研究所としても関連企画を準備してきた。

最初のセッションで「都市の緑を守る意義」と題 して、名古屋大学生命農学研究科の宗宮弘明教授が 報告した。地球の歴史や魚類との関係からヒトのな りたち、生態系や生物多様性をわかりやすく説明し、 都市と生物多様性との関係について、名古屋平針の里山などを例に問題を鋭く提起した。 「自然はあたりまえにあるのではなく、まもらなければならない」という生物学者の言 葉を引用して、持続可能な社会を作るには環境教育 が不可欠だと述べる。 宗宮教授は市民グループ「平針の里山保全連絡協 議会」代表であり、報告は具体的で説得力に富むも のであった。残念ながら、シンポジウムの3日後、 河村名古屋市長は平針里山の開発許可を認めた。 COP10を控え、平針をはじめとした里山の行方を注視していきたい。

「暮らしの中の生物多様性」をテーマにした次のセッションでは、城西大学の石井雅 章講師が大学で実践している「耕作放棄地活用プロジェクト」を紹介した。続いて鎌倉 を中心に「サークルてのひら島」などで活動している廣田修氏が、「環境保育とこども の遊び場」と題して豊富な資料により報告した。

報告の後、参加者との質疑も活発に行 われ、じつに興味深いシンポジウムとなった。初雪の寒さも影響したのか、期待したほ ど参加者が少なかったのが残念であった。

山田 明 (同研究所長)

バラダース・ゴシャール客員教授「インド・中国・日本間の協力とアジアにおける新たな戦略バランス」

マンデー・サロン 2006年12月4日(月)<

テーマ:India-China-Japan Cooperation and the New Strategic Balance in Asia」
「インド・中国・日本間の協力とアジアにおける新たな戦略バランス」

講師: Visiting Professor, Baladas Ghoshal バラダース・ゴシャール客員教授

マンデーサロン12月4日に開催されたマンデー・サロンは、本大学人文社会学部客員教授であるインドのジャワハルラル・ネルー大学のバラダース・ゴシャール教授による、アジア国際関係における新秩序形成の可能性についての講演であった。すでに経済大国である日本に加え、近年経済成長がめざましい中国、そして近年IT革命で注目されるインド、これら三国が一億を超える人口、そしてGDPやPPP(購買力評価)の額からもアジアの三大巨人といえ、これら三国が経済・商業的に密接に連携するだけでなく、外交・軍事・安全保障上でも協力関係を築くことが、アジアのさらなる繁栄と地域の安定、さらには平和の構築に貢献するという主張であった。

中国とインドは、実はごく最近まで約40年間にわたる国境紛争による対立関係にあったが、約二年前に両国の経済協力関係を踏まえて敵対関係にようやく終止符を打ったばかりである。日本と中国の関係も、安倍首相による中国訪問、北朝鮮問題をめぐる日中の多少なりの協力関係など、小泉内閣時代に比べると、少しながらも改善の兆しをみせはじめている。また日本企業によるインドへの積極的投資など、三国間の距離は縮まりつつまることも、ゴシャール教授の主張に現実味を持たせている。これら三国以外にも、韓国やASEAN諸国との協力などの地域連携が、米国主体の安全保障体制から地域主体の安全保障体制へと移行する可能性を示唆した。

これに対して経済・商業分野での三国の協力関係はいいとしても、安全保障問題については、日米安全保障条約やASEAN諸国の米国への安全保障上の依存、台湾問題、中国とインドが核保有国であるが日本は非核国である点、三国による大国主義に陥ることへの懸念などの質問・批判が出されて、活発な議論が行われた。

日本の対アジア外交のさらなる改善の必要性を強く感じるとともに、アジアの国際関係をインドなどの南アジアからと、日本からの視点では、異なる見方が可能であることがわかり、こうした視点の違いによって学問的考察を深める貴重な機会となった。

松本佐保(同研究科助教授)