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吉田一彦教授「古代の民衆像を再考する」

Posted By human On 2006年10月7日 @ 17:10 In マンデーサロン | Comments Disabled

マンデーサロン 2006年10月2日(月)

テーマ:「古代の民衆像を再考する」

講師: 吉田一彦教授

マンデーサロン月に一度、第1月曜日に開催される「マンデーサロン」も3回目となった。今回は吉田一彦教授を講師に「古代の民衆像を再考する」と題しての講義である。「民衆の古代史―『日本霊異記』に見るもう一つの古代」のタイトルで、著書が風媒社から刊行されたのはこの4月のこと。「ストレスがたまると原稿が進むんですよ」という教授の話は、「日本霊異記」から始まった。遭難した漁民、勝手に出家した私度僧、強欲な金貸しなど市井に生きる人々の暮らしぶりが生きいきと描かれている日本最古の仏教説話集である。かつてはただのものがたりだと思われていたこれらだが、幾多の木簡の出土や遺跡の発掘によって、信頼に足る史料だと吉田教授は確信したという。「山川出版の日本史にはたしか『律令国家の成立』という章立てがありますよね」との問いかけに深く頷く参加者たち。

「律令国家」とは、古代国家の一形態で、律令を統治の基本法典としたもの。巨大な官人群を擁し、人民に班田収受によって一定面積の耕地を保障する代わりに、戸籍につけて租・庸・調・雑徭など物納租税や徭役労働を課し、個別人身支配を徹底した。日本では隋・唐に習って7世紀半ばから形成され、奈良時代を最盛期とし、平安初期の10世紀頃まで続いた。(広辞苑より)  「日本霊異記」に記される古代社会の実態は、律令の定める国家の姿とは大きく異なっていることをどう説明したらよいのだろうかと教授は続ける。まずは古代国家が「法に基づく国家」なのかどうかを再考すべきであり、「法の支配ではなく、人(天皇)の支配に基づく国家」ではなかったかと吉田説が展開する。古代史パラダイムの転換である。

つい先日、島根で平安初期の「唐風女性像」の板絵が発掘された。千年以上も埋もれていたタイムカプセルからはどんなメッセージが読み解かれるのだろう。まったくの初心者の想像力をかくも刺激する、スリリングで贅沢な時間をいただいた。次回「マンデーサロン」の開催が待たれるところである。

重原厚子(同研究科博士前期課程)


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