印刷 印刷

矢野均教授人間文化研究叢書 5 矢野均『不確実状況下における多目的計画問題に対する意思決定手法』(丸善プラネット, 2015年)合評会

マンデーサロン

人間文化研究叢書 5 矢野均『不確実状況下における多目的計画問題に対する意思決定手法』(丸善プラネット, 2015年)合評会

2015年6月22日(月) 午後4時30分~6時

講師 矢野均教授

人間文化研究業書として、本年2月に出版された上記の本は、著者の10年にわたる研究成果をまとめたものである。たしかに世の中、不確実性に満ちており、あちらを立てれば、こちらに不満が増大するといった競合的な多目的問題が常駐している。このような解決が困難に思える課題に対してどんな方法論があるのかは大方の関心事である。著者は確率論、ファジィ理論を駆使してパレート最適を満たす中からある意思決定を行う手法を提案し、その数学モデルを構築し、農業問題への応用例に示している。

質疑応答での話題は、沖縄問題、東芝の粉飾決算、地域開発に携わる方からの農業政策の生々しい問題、さらには教授会での意思決定にも使えるのではないか、等々であった。

率直な感想を述べさせていただきたい。かかる研究は数学を駆使しているとはいえ、一つの理論、一つの仮説であって、数学上扱いやすい正規分布を仮定し、ファジィ集合を表すメンバーシップ関数も適当に設定して構築された数学モデルであり、ファジィ制御のような実践的成果を伴う研究とは異なる。示された応用例は、むしろ理論を分かりやすく説明し、対話型のシステムがどのように機能するかを確認するためであり、まだ理論と現実との乖離は大きい。しかし、権力、金、意思決定者同士のそれぞれの欲望が渦巻く現実問題にもその応用可能性の期待を聴衆に抱かせたのは、これは異文化のなせる業(わざ)であろうか。この日、私の中に残像とし残ったのは、「異文化交流」という言葉の中の「異」のとんでもない深さであった。だからと言って本研究の価値を少しでも過少評価するものではない。理論が現実の一部を掬い取ったときそれは大きな力になるからである。

塚本弥八郎(市民)

マンデーサロン

マンデーサロン