土屋勝彦教授他「響き合う文学的創造力― 人間文化研究叢書第1巻『反響する文学』刊行を記念して」

マンデーサロン 2011年7月11日(月)

テーマ:「響き合う文学的創造力― 人間文化研究叢書第1巻『反響する文学』刊行を記念して」

講 師: 土屋勝彦教授、田中敬子教授、山本明代准教授、谷口幸代准教授

コメンテーター: 小林かおり教授、佐野直子准教授マンデーサロン

人間文化研究叢書第一巻として刊行された『反響する文学』の主題は、〈越境文学〉としての〈世界文学〉です。世界文学とは従来、一義的には〈国民文学〉を指すものだったが、移民などに見られる「移動する人」の視点、つまり、自らの属する、あるいは、属することを強いられた社会の歴史や文化を相対化する視点を無視しては、現代の〈世界文学〉を捉えきれないのではないか。『反響する文学』はこうした観点から、〈国民文学〉を異化するものとして〈世界文学〉を位置づけ、その最も顕著な例として、移民・移住の経験や複数言語の使用に特徴づけられる、〈越境作家〉たちの文学の諸相を示すものです。

マンデーサロンサロンでの議論は、同書の内容と同じく示唆に満ちたものでした。特に、一つの土地にとどまり一つの言語で書く書き手の作品は〈世界文学〉となりえないのか、〈越境作家〉といえども国民としての意識を持たないわけではないのではないか、といった問いを巡り、刺激的なやり取りが交わされました。 その中で示されたのが、文学の本質としての〈越境性〉という視点です。何らかの帰属意識を持ちつつも、他者性や異質なものを自らに取り込むことによって、それまでの意識を更新してゆくことが〈越境〉なのであり、それは地理的移動の経験や使用言語によってのみ実現されるのではない――このような補助線をもって、今度は一言語の書き手や〈国民文学〉の代表選手たちの作品を読み直すとき、どのような風景が見えてくるのだろうかと、楽しみに思うサロンでした。

福岡麻子(名古屋市立大学非常勤講師)

上田敏丈准教授「保育における「スタイル」を考える-保育者は幼児にどうかかわるか-」

マンデーサロン 2011年6月20日(月)

テーマ:「保育における「スタイル」を考える-保育者は幼児にどうかかわるか-」

講 師: 上田敏丈准教授

発表内容は、保育者それぞれが持つ雰囲気という漠然としたものを客観的に表すことができないか、という視点から、保育者の子どもとのかかわり方の特性をティーチング・スタイルとして分類し、そのスタイルの違いが保育の援助にどのように影響するのかについて、実際の保育の観察を通して明らかにしていこうとするものであった。

ティーチング・スタイルは①活動に対し褒めたりうなずいたりして対応する「反応的」スタイル、②活動を指示したりすることが多いが対応は一貫、平等である「指導的」スタイル、③積極的にはかかわらず、待ち、見守る「応答的」スタイル、④情報を提供し、教えていく「教授的」スタイルの4つに分類され、「指導的」「応答的」スタイルの保育者が保育活動中の観察(片づけの場面、製作活動の場面、いざこざ場面)を通して、保育援助の違いについて考察している。その結果、保育者の子どもとのかかわり方について「指導的な関わりはよくない」「応答的に関わらなければならない」というようなステレオタイプの考えではなく、いろいろなタイプの保育者がいて、それぞれの特性を活かした保育援助を考えていくことが必要であるという結論であった。

フロアから、親のしつけ意識は文化によって異なっていると思うが、どのように影響するか、また、幼児教育以降への継続性の問題はどうかなどの質問があり、活発な討論がなされた。保育の現場での豊富な観察を通したこのような実践的な研究は、人文社会学部の保育士・幼稚園教諭を目指す学生が保育者像を構築する上で、あるいは大学院生が教育に関する研究を進めていく上で大いに参考になるであろう、と期待を抱かせてくれた。

野中 壽子(同研究科教授)

日木 満教授「according to plan と according to the plan の違い ― 英語表現の奥深さを探る ―」

42回サイエンスカフェ 2011年6月19日(日)

テーマ: 「according to plan と according to the plan の違い ― 英語表現の奥深さを探る ―」

講 師: 日木 満教授

サイエンス・カフェ
サイエンスカフェに通い始めて3年が経ちました。 毎回分野の異なる講義を、興味深く聴かせていただいています。今回は現在通っている「市民学びの会」の英字新聞を読むクラスで、毎月悩まされている「英語と日本語の根本的な違い」に迫るものとして、期待してまいりました。

冠詞によって意味が変わる名詞の個性を少しでも理解できれば儲けものと思っていましたが、異なる7つの名詞形がなぜそうなるのかについて今後も悩むことになりそうです。

今回『名詞的名詞』と『動詞的名詞』の分類について、日木先生の懇切丁寧なご指導をいただいたことは、私にとって大きな収穫でした。

英語を習い始めてからすでに60年以上が経ちますが、改めて「表現の奥深さ」を実感した2時間でした。

北村 彬(「市民学びの会」会員)

樋澤 吉彦准教授「ソーシャルワーカーは誰/何を支援する専門家なのか?-「倫理的に危険な商売」の仲間入りを果たした医療観察法下におけるソーシャルワーカーの役割-」

マンデーサロン 2011年5月16日(月)

テーマ: 「ソーシャルワーカーは誰/何を支援する専門家なのか?-「倫理的に危険な商売」の仲間入りを果たした医療観察法下におけるソーシャルワーカーの役割-」

講 師: 樋澤 吉彦准教授

マンデーサロン「ソーシャルワーカー」のタイトルに興味を持ち、久しぶりに参加したマンデーサロンだった。本講演は、医療観察法の成立による、ソーシャルワーカー(SW)、特にPSW(精神保健福祉士)の役割に関しての問題提起であったといえよう。「簡単にいえば、『余計なお世話』と『余計でないお世話』の境界はどこにひかれるのか?ということである。」とレジュメの一節にある。精神保健福祉分野における介入の問題を学ばせていただくよい機会となった。

樋澤先生は結論の一つとして「PSWが本法における強制処遇に内包する「社会防衛」的意味と「生活支援」的意味の両義性を消極的に肯定していること」を挙げられていた。個人的な体験であるが、保護観察所からキャリア支援を依頼されている私にとって、この「社会防衛」と「生活支援」という言葉はたいへん示唆的であったことを付記しておきたい。保護観察中の少年の面談に際しては、同僚から「社会防衛」上のリスクを再三指摘され、他の利用者と同様の「生活支援」を行うことの困難さを実感した次第である。

重原 厚子(人間文化研究所特別研究員)

阪井 芳貴教授「沖縄の日本復帰の日にちなんで ─復帰39年の意義─」

41回サイエンスカフェ 2011年5月15日(日)

テーマ: 「沖縄の日本復帰の日にちなんで ─復帰39年の意義─」

講 師:  阪井 芳貴教授

サイエンス・カフェ

5月15日、「沖縄日本復帰の日」その当日に受講する阪井先生の講義はとても有意義なものでした。 まず、復帰を考える前に沖縄近現代史を知るということで、沖縄が4つの時代を経てきたこと、それは常に外部からの力によって支配される歴史であったことが説明されました。そして「沖縄」と「日本」双方から見た互いの関係や、今沖縄が抱えている問題点などをわかりやすく説明していただきました。

先生ご自身が基地の近くに住んでいた経験もあり、沖縄とは「戦争の見える島」である、とおっしゃった言葉は非常に重く心に残っています。私たちは、癒しの島・美しい楽園というイメージを沖縄に求めていますが、それはほんの一面で、実際には 基地問題や環境問題が深刻であることは、昨今の報道で少しは理解しているつもりでした。しかし、「生活圏に基地があるということは、住民の日常生活と“戦争”が隣り合わせであること」という現実を示されたとき、自分の認識不足を強く感じました。そしてこの現実を多くの人が認識し、沖縄だけの問題ではなく日本国民全体の問題として考えなくてはならないと改めて感じました。

また、「日本復帰に際しての沖縄県知事のことば」の中で、沖縄県人の悲願であった復帰が決まったことへの感激の言葉が述べられている反面、「必ずしも願望が入れられたとは言えない」「これからもなお厳しさが続き新しい困難に直面するかもしれない」という複雑な思いが述べられており、手放しでは喜べない当時の人々の感情を知りました。そしてそれが39年経った今でもほとんど解決されずに残っていることを考えると、とても申し訳ない気持ちになりました。

沖縄に対する無関心、無理解を無くすにはどうしたらよいか?なかなか答えは出ませんが、自分のできる範囲で真実を知り、それを誰かに伝えられるようにこれからも勉強したいと思います。

斉藤なつ江(市民)
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