宮田 学教授「センター入試問題はどのように作られるか―英語の場合」

第32回 サイエンスカフェ 2010年2月21日(日)

テーマ:「センター入試問題はどのように作られるか―英語の場合」

講 師: 宮田 学教授

サイエンス・カフェ毎年1月中旬に行われるセンター試験。その中でも最も受験生が多い全国約50万人が受験する英語の試験の裏側に迫った。

宮田先生には平成18年度から平成19年度の2年間にわたって英語(筆記)の作題委員として試験の作成に携わったという経歴がある。しかも、1年目は副部会長、2年目は部会長を務められた。その経験をもとに問題がどのように作られ、どんな手順で出来上がっていくのかを、実体験を交えながら詳しく説明された。作題委員には守秘義務があり、委員である任期期間はある一定の人しか知らないという重要任務である。その期間、作題委員には相当なるプレッシャーがかかるのではないかと感じた。また、試験実施後の受験生・高校教師や塾・マスコミ等の反応についてのことや平成19年度の出題形式の大幅変更の話にも触れられた。当時、受験指導をしていた私としては、出題形式の大幅変更の話は大変興味深く拝聴した。

最後は、これからの英語教育はどうあるべきかという議論に移った。現在、英語という教科は高校・大学入学試験の必須科目である。しかし、本来何のために英語を勉強するのかといえば、試験のためではなく、英語の文献を読み、英語で自己表現が出来るようにするためである。そして、その英語力をアップさせるには受験テクニックではなく、「英語を聞き、話し、読み、書く」ことが基本である。そのことを念頭に置いて教育することが現在の英語教育には重要であると宮田先生は強調されていたのが印象的であった。

中島 眞吾(同研究科博士前期課程)

松本佐保准教授 「民族・宗教・共生―プロテスタントとカトリックの 歴史的和解・北アイルランドのテロの終結について」

第31回 サイエンスカフェ 2009年12月20日(日)

テーマ: 「民族・宗教・共生―プロテスタントとカトリックの 歴史的和解・北アイルランドのテロの終結について」

講 師: 松本佐保准教授

毎月恒例となっているサイエンスカフェ、2009年の締めくくりは松本佐保先生による「民族・宗教・共生―プロテスタントとカトリックの歴史的和解・北アイルランドのテロの終焉について」でした。12月の厳しい寒さのなか当日は18名の方々がお集まりくださり、和やかな雰囲気で講演はスタートしました。

北アイルランドでは長年にわたってカトリックとプロテスタントの間で紛争が続いていましたが、昨年ついに両者の歴史的な和解が実現しました。今回は、その和平成立にカトリック教会とヴァチカンが果たした役割に注目し、和解に至るまでの経緯をご講演頂きました。 はじめに、イギリスの植民地であったアイルランドの歴史やキリスト教におけるカトリックとプロテスタントの関係を丁寧に説明してくださり、北アイルランド紛争の背景に存在する問題まで深く理解することができました。その後、北アイルランドで起きたカトリックとプロテスタントとの争いを1988年の和平成立、さらに昨年のカトリック系とプロテスタント系両政党による連立政権の誕生まで時代を追って見ていきました。個人的に興味深かったのは、なんとか成立した和平を守るために、カトリックの信者たちがプロテスタントの教会を訪問して、お互いにコミュニケーションをとる機会を教会が提供しているという点です。松本先生もおっしゃっていましたが、紛争の原因となった宗教が今度は和平を維持するための重要な役割を担っていることに宗教というものがもつ意味の深さを感じました。

そして、講義終了後の質疑応答タイムでは多くの方から鋭い質問が投げかけられるなど活発な意見交換が行われ、互いに理解を深める大変貴重な時間となりました。

 中島 眞吾(同研究科博士前期課程)

「COP10 と環境まちづくり」シンポジウム

「COP10 と環境まちづくり」シンポジウム

標記シンポジウムが2009年12月19日午後、人文社会学部棟1 階会議室で行われた。COP10が来年10月に愛知・名古屋で開催されるのを前に、人間文化研究所としても関連企画を準備してきた。

最初のセッションで「都市の緑を守る意義」と題 して、名古屋大学生命農学研究科の宗宮弘明教授が 報告した。地球の歴史や魚類との関係からヒトのな りたち、生態系や生物多様性をわかりやすく説明し、 都市と生物多様性との関係について、名古屋平針の里山などを例に問題を鋭く提起した。 「自然はあたりまえにあるのではなく、まもらなければならない」という生物学者の言 葉を引用して、持続可能な社会を作るには環境教育 が不可欠だと述べる。 宗宮教授は市民グループ「平針の里山保全連絡協 議会」代表であり、報告は具体的で説得力に富むも のであった。残念ながら、シンポジウムの3日後、 河村名古屋市長は平針里山の開発許可を認めた。 COP10を控え、平針をはじめとした里山の行方を注視していきたい。

「暮らしの中の生物多様性」をテーマにした次のセッションでは、城西大学の石井雅 章講師が大学で実践している「耕作放棄地活用プロジェクト」を紹介した。続いて鎌倉 を中心に「サークルてのひら島」などで活動している廣田修氏が、「環境保育とこども の遊び場」と題して豊富な資料により報告した。

報告の後、参加者との質疑も活発に行 われ、じつに興味深いシンポジウムとなった。初雪の寒さも影響したのか、期待したほ ど参加者が少なかったのが残念であった。

山田 明 (同研究所長)

バラダース・ゴシャール客員教授「インド・中国・日本間の協力とアジアにおける新たな戦略バランス」

マンデー・サロン 2006年12月4日(月)<

テーマ:India-China-Japan Cooperation and the New Strategic Balance in Asia」
「インド・中国・日本間の協力とアジアにおける新たな戦略バランス」

講師: Visiting Professor, Baladas Ghoshal バラダース・ゴシャール客員教授

マンデーサロン12月4日に開催されたマンデー・サロンは、本大学人文社会学部客員教授であるインドのジャワハルラル・ネルー大学のバラダース・ゴシャール教授による、アジア国際関係における新秩序形成の可能性についての講演であった。すでに経済大国である日本に加え、近年経済成長がめざましい中国、そして近年IT革命で注目されるインド、これら三国が一億を超える人口、そしてGDPやPPP(購買力評価)の額からもアジアの三大巨人といえ、これら三国が経済・商業的に密接に連携するだけでなく、外交・軍事・安全保障上でも協力関係を築くことが、アジアのさらなる繁栄と地域の安定、さらには平和の構築に貢献するという主張であった。

中国とインドは、実はごく最近まで約40年間にわたる国境紛争による対立関係にあったが、約二年前に両国の経済協力関係を踏まえて敵対関係にようやく終止符を打ったばかりである。日本と中国の関係も、安倍首相による中国訪問、北朝鮮問題をめぐる日中の多少なりの協力関係など、小泉内閣時代に比べると、少しながらも改善の兆しをみせはじめている。また日本企業によるインドへの積極的投資など、三国間の距離は縮まりつつまることも、ゴシャール教授の主張に現実味を持たせている。これら三国以外にも、韓国やASEAN諸国との協力などの地域連携が、米国主体の安全保障体制から地域主体の安全保障体制へと移行する可能性を示唆した。

これに対して経済・商業分野での三国の協力関係はいいとしても、安全保障問題については、日米安全保障条約やASEAN諸国の米国への安全保障上の依存、台湾問題、中国とインドが核保有国であるが日本は非核国である点、三国による大国主義に陥ることへの懸念などの質問・批判が出されて、活発な議論が行われた。

日本の対アジア外交のさらなる改善の必要性を強く感じるとともに、アジアの国際関係をインドなどの南アジアからと、日本からの視点では、異なる見方が可能であることがわかり、こうした視点の違いによって学問的考察を深める貴重な機会となった。

松本佐保(同研究科助教授)

2009年人間文化研究所5周年記念シンポジウム

2009年人間文化研究所5周年記念シンポジウム

11月28日14時から人文社会学部棟201教室にて標記シンポジウムが開催された。博士後期課程の山田陽子さんが司会をつとめ、まずは吉田一彦研究科長が挨拶をした。ついで長野県下伊那郡泰阜村の松島貞治村長が「安心の村は自律のむら」と題して記念講演を行った。

泰阜村は人口1949人の高齢化率37.6%の小さな村であるが、65歳以上の人口は減少しつつあり、高齢化は乗り切った。泰阜村は在宅福祉の村として全国的に有名である。人間にとって「老い」「死」は避けることのできない現実である。高齢者の願いは「住み慣れた家で最 期を迎えたい」であり、そのために医療より福祉、在宅福祉に力を入れてきた。役場は山村社会の「拠り所」であり、合併を選択せず自律のむらを目指してきた。泰阜村は戦前、満州開拓に1200名の村民を送り出し、638名もの人が犠牲となった。国策にのらず、自分の足で歩む以外ないというのが結論だ。松島村長の講演はじつに示唆に富むものであり、テープを起こして詳細に紹介していきたい。

休憩をはさんで、「持続可能な社会」をテーマにパネルディスカッションを行った。パネラーは松島村長のほか、本研究科から成玖美准教授、村井忠政名誉教授、福吉勝男名誉教授、コーディネーターを私がつとめた。両名誉教授は、人間文化研究所の初代と2代目の所長である。3代目を私がつとめている。まず記念講演に対する感想・質問を手短に述べてもらい、会場からの質問を含め、村長にじっくり回答してもらった。記念講演とともに、延べ60名の参加者から好評のようであった。母の死の直後で疲れ果てていたが、無事にシンポジウムを終えられ嬉しいかぎりだ。

山田 明 (同研究所長)
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