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土屋勝彦教授「オーストリアの現代作家たち」

第18回 サイエンスカフェ 2008年11月30日(日)

テーマ: 「オーストリアの現代作家たち」

講師: 土屋勝彦教授

サイエンスカフェ11月のサイエンスカフェは「オーストリアの現代作家たち」という題で、土屋勝彦先生による講義が行われた。最初に、トーマス・ベルンハルト、ペーター・ハントケ、イェリネク、ペーター・ローザイなど著名な現代作家たちについて、各作家の生い立ち、文学の特徴、社会的および文学的な価値評価などについて詳しく説明がなされた。

歴史的に見ても、共生・調和を志向する多民族国家たるハプスブルグ王朝の伝統を受け継ぎ、ウィーンの芸術家たちが政府や社会規範と一体化する傾向がある中で、文学作家たちは公権力との距離を置いていること、またドイツとの関係を重視しつつ、自らのアイデンティティを模索する中で、二重化された自己の葛藤をエネルギーに変えて、言語そのものによって世界を再構築する試みを行っていることを知り、オーストリア文学とは、多元的な価値の総集であることをあらためて感じた。

講義の後は、参加者から積極的な質疑応答がなされた。若者の活字離れが進んでいる現状や、今後の文学のあり方を危惧する意見も多い中、最後に、先生は文学研究の意義について述べられた。「言語によって構築される世界は無限である。現実を前に言葉を失うか、言葉を使ってそれを超えていくかが作家たちに問われている課題である。そして、その中で、文学研究とは、優れた作品に触れ、感動したことに責任を持ち表現することである」と。

文学研究を行う一人として、心が奮い立った。豊かな時間を過ごすことができた。

野田いおり (同研究科博士前期課程)