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バラダース・ゴシャール客員教授「インド・中国・日本間の協力とアジアにおける新たな戦略バランス」

マンデー・サロン 2006年12月4日(月)<

テーマ:India-China-Japan Cooperation and the New Strategic Balance in Asia」
「インド・中国・日本間の協力とアジアにおける新たな戦略バランス」

講師: Visiting Professor, Baladas Ghoshal バラダース・ゴシャール客員教授

マンデーサロン12月4日に開催されたマンデー・サロンは、本大学人文社会学部客員教授であるインドのジャワハルラル・ネルー大学のバラダース・ゴシャール教授による、アジア国際関係における新秩序形成の可能性についての講演であった。すでに経済大国である日本に加え、近年経済成長がめざましい中国、そして近年IT革命で注目されるインド、これら三国が一億を超える人口、そしてGDPやPPP(購買力評価)の額からもアジアの三大巨人といえ、これら三国が経済・商業的に密接に連携するだけでなく、外交・軍事・安全保障上でも協力関係を築くことが、アジアのさらなる繁栄と地域の安定、さらには平和の構築に貢献するという主張であった。

中国とインドは、実はごく最近まで約40年間にわたる国境紛争による対立関係にあったが、約二年前に両国の経済協力関係を踏まえて敵対関係にようやく終止符を打ったばかりである。日本と中国の関係も、安倍首相による中国訪問、北朝鮮問題をめぐる日中の多少なりの協力関係など、小泉内閣時代に比べると、少しながらも改善の兆しをみせはじめている。また日本企業によるインドへの積極的投資など、三国間の距離は縮まりつつまることも、ゴシャール教授の主張に現実味を持たせている。これら三国以外にも、韓国やASEAN諸国との協力などの地域連携が、米国主体の安全保障体制から地域主体の安全保障体制へと移行する可能性を示唆した。

これに対して経済・商業分野での三国の協力関係はいいとしても、安全保障問題については、日米安全保障条約やASEAN諸国の米国への安全保障上の依存、台湾問題、中国とインドが核保有国であるが日本は非核国である点、三国による大国主義に陥ることへの懸念などの質問・批判が出されて、活発な議論が行われた。

日本の対アジア外交のさらなる改善の必要性を強く感じるとともに、アジアの国際関係をインドなどの南アジアからと、日本からの視点では、異なる見方が可能であることがわかり、こうした視点の違いによって学問的考察を深める貴重な機会となった。

松本佐保(同研究科助教授)