Archive for the ‘マンデーサロン’ Category

川本徹 准教授「岩石砂漠の映画文化論 -ジョン・フォード西部劇の風景を読む」

マンデーサロン

岩石砂漠の映画文化論 -ジョン・フォード西部劇の風景を読む

2015年7月13日(月) 午後4時30分~6時

講師 川本徹 准教授(アメリカ文学・文化)

「映画のイメージが歴史をかきかえる」これが今回の発表の一番の面白さだったように感じる。西部劇もジョン・フォードもよく知らなかった私が、モニュメントバレイに対する川本先生の熱のこもった発表に次第に引き込まれていった。

商売人ハリー・グールディングはアメリカ西部の力強い岩石群、モニュメントバレイの存在をジョン・フォード監督に紹介した。ミトン、玉座の王様など後に名 づけられた岩々がそびえたっている風景は、誰もが無意識に目にしたことがあるだろう。そしてそれ以来、20世紀のあらゆる映画にその情景が使われるように なった。その結果、アリゾナ州とユタ州の間に広がるモニュメントバレイが、まるでアメリカ西部全体に存在していたかのような19世紀のイメージをつくりだ したのだ。つまり、映画が集団意識レベルでのイメージをかきかえてしまったのだ。さらにモニュメントバレイの情景は映画以外でも一人歩きし、列車や飛行船などの技術と結びつき、あたかも人間が開拓した列車がはしっていたかのようなイ メージまでつくりだしてしまう。しまいには核技術のイメージともリンクしだすが、興味深いことに、この存在は現実の出来事であるのだ。実はあのハリー・ グールディングがウランの存在も人々に伝えていたのだ。核という影の歴史イメージは本当であるようだが、ここにアメリカのアイデンティティを見出すことが できると川本先生はおっしゃる。アメリカの壮大な大自然であるモニュメントバレイとそこに対峙する科学技術の相乗効果により、ヨーロッパとは違うアメリカ の自信を表しているのではないかという。そんな人間心理まで分析されていた。

アメリカのモニュメントバレイから、映画イメージの影響力、そしてアメリカらしさまでもが浮き彫りとなった発表は実に面白く、またマンデーサロンに参加したいものだ。

太田彩菜(愛知淑徳大学生)

マンデーサロン

矢野均教授人間文化研究叢書 5 矢野均『不確実状況下における多目的計画問題に対する意思決定手法』(丸善プラネット, 2015年)合評会

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人間文化研究叢書 5 矢野均『不確実状況下における多目的計画問題に対する意思決定手法』(丸善プラネット, 2015年)合評会

2015年6月22日(月) 午後4時30分~6時

講師 矢野均教授

人間文化研究業書として、本年2月に出版された上記の本は、著者の10年にわたる研究成果をまとめたものである。たしかに世の中、不確実性に満ちており、あちらを立てれば、こちらに不満が増大するといった競合的な多目的問題が常駐している。このような解決が困難に思える課題に対してどんな方法論があるのかは大方の関心事である。著者は確率論、ファジィ理論を駆使してパレート最適を満たす中からある意思決定を行う手法を提案し、その数学モデルを構築し、農業問題への応用例に示している。

質疑応答での話題は、沖縄問題、東芝の粉飾決算、地域開発に携わる方からの農業政策の生々しい問題、さらには教授会での意思決定にも使えるのではないか、等々であった。

率直な感想を述べさせていただきたい。かかる研究は数学を駆使しているとはいえ、一つの理論、一つの仮説であって、数学上扱いやすい正規分布を仮定し、ファジィ集合を表すメンバーシップ関数も適当に設定して構築された数学モデルであり、ファジィ制御のような実践的成果を伴う研究とは異なる。示された応用例は、むしろ理論を分かりやすく説明し、対話型のシステムがどのように機能するかを確認するためであり、まだ理論と現実との乖離は大きい。しかし、権力、金、意思決定者同士のそれぞれの欲望が渦巻く現実問題にもその応用可能性の期待を聴衆に抱かせたのは、これは異文化のなせる業(わざ)であろうか。この日、私の中に残像とし残ったのは、「異文化交流」という言葉の中の「異」のとんでもない深さであった。だからと言って本研究の価値を少しでも過少評価するものではない。理論が現実の一部を掬い取ったときそれは大きな力になるからである。

塚本弥八郎(市民)

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市川哲准教授「特産物取引に見る民族関係と自然環境利用の変化:近年のマレーシアにおけるツバメの巣ビジネスの特徴」

マンデーサロン

特産物取引に見る民族関係と自然環境利用の変化:近年のマレーシアにおけるツバメの巣ビジネスの特徴

2015年5月25日(月) 午後4時30分~6時

講師 市川哲准教授 (観光学・東南アジア地域研究)

古くから中国で高級食材として珍重されている「ツバメの巣」は、中国内部だけで完結するものではないそうです。主に採集はマレーシアやインドネシアなど東南アジアで行われ、取引は香港で、消費は中国本土で、という大規模なビジネスがあるのだと知りました。同じく中国文化圏で高級品として扱われているナマコよりも、供給量が多いため今後のビジネスチャンスは大きいと考えられています。その位置づけは日本でいうメロンに似ているそうです。

特にフォーカスされたのが、ツバメの巣採集地であるマレーシアのサラワクという地域でした。伝統的な採集方法として、サラワクの先住民によって洞窟でアナツバメを引き寄せ営巣させるものがあり、もう1つの方法に、ファームハウスを建てCDやDVDの音声を使ってアナツバメを引き寄せるものがあり、言わば「天然」と「養殖」という分類ですが、味は変わらないそうです。

報告後、近年の習近平主席による倹約令の影響を受けたのかどうかという質問がありましたが、あまり受けていないというのが意外でした。また、ツバメの巣にはヒアルロン酸が豊富に含まれていると聞いて、その美容効果が気になりました。まだまだ神秘がありそうで今後の研究成果を聞けるのが楽しみです。

林聖子 (同学部卒業生)
マンデーサロン

人間文化研究所共同研究プロジェクト成果報告会 2

マンデーサロン 2015年3月23日(月)

人間文化研究所共同研究プロジェクト成果報告会 2

第1部「成人期への移行と年齢規範意識 —
『製造業中心地域における成人期への移行と経済変動』を考えるために」

第2部「ESDのフロンティア-人文社会学部における実践にむけて」

何気に訪れた大学ウェブサイト内でマンデーサロンのことを知り、そこにあった安藤究氏の研究発表に「成人期」と「移行」なる文字を発見。勝手に「近代化過程と通過儀礼とかかな~?」と思いこみ、ふらりと滝子へと足を延ばしてみたのですが。

放大で心理臨床を学ぶ身の上、発達やライフサイクルにはなじみがあるものの、なぜかキャリアが関わるとなると、実はからきし苦手な私でした。しかも習いたての統計学知識もまったく及ばない数値の解釈があって、45分の発表とはいえなかなかの手ごわさ。しかし、ライフイベントの中からある規範意識を設定し、その意識調査をもってひとつのライフサイクル段階への到達感を見るという考え方に、近代化で廃れつつある通過儀礼的な要素を感じ取りました。おそらく心理学とも人類学とも似て非なる領域かと思いますが、大げさに言えば、これまで数値化困難と思われがちな通過儀礼的要素への、新たな研究手法を示された気もしてきます。

普段放大で発達などを学んでいると、当たり前のように受け止めているライフサイクルですが、かような設定要素を抽出できるかと思うと、はっとさせられました。研究手法としても、大きな参考になりました。

石黒隆利 放送大学全科生 心理と教育専攻
(愛知学習センター所属)

マンデーサロン

人間文化研究所共同研究プロジェクト成果報告会

マンデーサロン 2015年1月26日(月)

人間文化研究所共同研究プロジェクト成果報告会

第1部「ポストエスニック時代の文学におけるオムニフォンの意義」

第2部「名古屋の観光を歴史・文化・まちづくりから考える」

今回は土屋勝彦氏と溝口正人氏の報告があり、土屋氏はシンポジウム「日本文学における越境の諸相」、溝口氏は歴史的町並の保存方法をテーマに報告された。
近世日本では西欧文学を輸入し、それを翻訳する作業が盛んに行われたが、日本文学は翻訳をした者の文学も構成要素の一つとなっている。すると、翻訳者たちの文学には、自然とヨーロッパ的表現が入っていることになるだろう。このように考えると、日本文学と言いながら、最初からその中にヨーロッパ的要素が含まれていることになり、本当の日本文学とは何か、本当の「越境」とは何か、さらには「日本的」とは何かと言う疑問が出てくる。土屋氏の報告はこのようなことを考える良いきっかけとなった。

日本には多くの歴史的建築物があるが、これらをどう保存していくか。溝口氏は歴史的町並の保存には①住めること②清潔さ③見える価値の三つが必要と言われた。この中で①住めること、という点は盲点であったが、とても納得した。そのため外観を残し、中は快適に住めるようにリフォームしているものもあるらしい。しかし、建築物によっては中の構造自体に価値があるものもあるはずである。このような建築物に対してどう対応して保存するのか考える必要があると感じた。
今回は土屋・溝口両氏による報告であって、それぞれの報告テーマは直接関係するものではなかったが、両氏の報告とも新たに考えるきっかけを与えてくれた有意義なものであった。

手嶋大侑(本学研究科博士前期課程)

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