Archive for 6月, 2009

石川洋明教授「子どもの虐待を防ぐ」

第25回 サイエンスカフェ 2009年6月21日(日)

テーマ: 「子どもの虐待を防ぐ」

講 師: 石川洋明教授

梅雨の中休みの午後、「カフェ・グラシュー」には20名ほどの受講生が集まった。小学校教諭をしている妻から、しばしば「児童虐待」の生々しい実例を聴かされている私にとって、今回のテーマは実に興味深いものであった。

「いつから子ども虐待が問題になったか」という、「子どもの虐待」の歴史的経緯の説明から始まった今回の講義は、有名な「メアリー・エレン事件」(1874年・ニューヨーク)の概略説明へと移行し、やがて20世紀後半の「子ども虐待防止ルネッサンス」の話題へと推移した後、主に日本の抱える現状と課題の提示、そして打開策についてのテーゼへと深化した。

今回の「サイエンスカフェ」における講義も、石川先生の豊富な国内外でのフィールドワーク経験を背景にしたものであり、ある事例や事象に対して先生自身が「実感」した感触と、それに基づいて構築された虐待防止のための理論的裏付けとが、絶妙のバランスを有し確実な説得力を帯びていた。

殊に「子ども虐待支援の層構造」についての説明は、明解にして肝要なポイントを押えたものであり、参加者が深く頷く姿が印象的であった。加えて「貧困と子ども虐待」の説明においては、「貧困の閾値」について解説した後に、日本の現状を語るという道筋を踏んだせいか、日本の抱える現状が予断を許さないものであることを強く印象付けられる結果となったように感じている。

最後に石川先生の研究方法が、理論社会学の確かな裏付けを基にしたフィールドワークであることを、改めて認識させられる講義であったことを付言したい。

太田昌孝(同研究科博士後期課程)

Anna Pegler-Gordon先生「写真から見るアメリカ合衆国の移民政策1875-1930年」

講演会 2009年6月13日(土)

テーマ:「写真から見るアメリカ合衆国の移民政策1875-1930年」

講 師: Anna Pegler-Gordon先生 (ミシガン州立大学ジェームズ・マディソン校)

、ミシガン州立大学(ジェームズ・マディソン校)のアンナ・ペグラー・ゴードン先生の講演会6月13日(土)14時より、ミシガン州立大学(ジェームズ・マディソン校)のアンナ・ペグラー・ゴードン先生の講演会が1号館1階会議室において開催された。今回、ペグラー・ゴードン先生は、日本アメリカ学会とアメリカ歴史家協会(OAH)の2009年度短期滞在研究者派遣プログラムによって来日され、本学人間文化研究科が受け入れ先となった。講演会は「写真からみるアメリカ合衆国の移民政策1875-1930年(In Sight of America: Photography and U.S. Immigration Policy, 1875-1930)」と題し、本研究科のアメリカ文化研究会と名古屋アメリカ研究会の主催、人間文化研究所の後援により、研究者だけでなく市民の方々にも理解いただけるように日本語の通訳を交えて行われ、合わせて49名の参加者を迎えた。

講演の内容は、アメリカ合衆国でその年に発表された優れた歴史研究論文を集めたThe Best American History Essays 2008に選ばれた論文を基にし、今年9月に出版される新刊の一部を紹介いただくものだった。気鋭の移民史研究者として注目されるペグラー・ゴードン先生の研究の新しさは、移民史研究の資料と方法に写真を取り入れ、写真による可視化の問題を論じた点である。具体的には、19世紀末アメリカ合衆国において中国系移民が排斥される中、科学的な管理強化に基づき証明写真が導入されたのに対し、一部入国が許可された中国系移民がアメリカの中産階級の規範に適合的な人物像を写真によって造形し抵抗を試みた点を分析することによって、アメリカの移民政策に内包された人種主義と移民の対抗戦略を明らかにした。講演には多くの質問が出され、講演会終了後にはペグラー・ゴードン先生を囲んで懇親会も行われた。

この講演会以外にも、12日(金)午後と13日(土)午前には研究者向けの2つのセミナー、セミナー1 “Nativism and Indigenismo: Mexican Immigrants and Mexican Arts in the United States, 1929-1940”とセミナー2 “Seeing Immigrants through Ellis Island”、15日(月)5限には学部生向けの特別授業 “Mexican Immigration: Past and Present” が開催された。今回の招聘により、多くの研究者だけでなく、本学の大学院生や学部生、市民学びの会を含む市民の方々も最新の移民史研究の成果にふれて、アンナ・ペグラー・ゴードン先生と研究交流を行うことができたのは有意義な機会だったと思われる。

山本明代 (同研究科准教授)