Archive for 7月 24th, 2009

土屋勝彦教授「越境する文学」

第26回 サイエンスカフェ 2009年7月19日(日)

テーマ: 「越境する文学」

講 師: 土屋勝彦教授

7月のサイエンスカフェは、「越境する文学」という題で、土屋勝彦先生による講義が行われた。 はじめに、越境文学についての定義の説明がなされた。「母語以外で執筆された文学」という狭義から「ナショナリティ、人種、男女の境界を超えた文学」という広義にいたるまで、越境文学とは幅広い意味を持つことが分かった。

次に、ドイツ語圏の越境作家の紹介と、社会的状況と文学のつながりについて説明を受けた。越境作家たちは、東欧再編やベルリンの壁の崩壊など、現代社会が抱える政治的問題と文化的問題の中で葛藤し、その問題を相対化し、異化している。複数の文化を往復しつつ執筆する越境作家たちは、アイデンティティの模索のため苦しんでいるが、それが制作活動においては、力になる側面もあるそうだ。

例えば移民の武器は、文体表現の新しさである。秩序言語に対して抵抗し、新たな表現法や言語感覚によって言語の規範性から離脱する。母語のイメージを制作言語に置き換えることにより、斬新な文学表現が可能なのだろう。母語以外の言語で執筆する作家は、言語に対するハンディキャップを武器にすることで、大きな可能性を秘めていると感じた。

質疑の時間には、多くの参加者が積極的に質問し、予定の時間を超過するほど、さまざまな議論がなされた。「越境文学」は参加者の年齢も性別も興味の方向さえも超えて、多くのことを語ってくれたのではないだろうか。

野田いおり (同研究科博士前期課程)