大衆社会論研究会活動報告(2023年度)

大衆社会論研究会活動報告(2023年度)
市民学びの会「大衆社会論研究会」はコロナ禍のなかオンライン研究会を2020年5月に立ち上げた。メンバーは村井忠政(ホスト)の他、黒川伸也、藤井洋一郎、川瀬智弘、牧真吾である。月1回の例会では、各会員が順番に報告担当者を務め、レジュメをもとに報告、その後全員による討論という形式をとっている。これまでに使用したテキストは、オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』(ちくま学芸文庫)、F・パッペンハイム『近代人の疎外』(岩波新書)、宇野重規『保守主義とは何か――反フランス革命から現代日本まで』(中公新書)である。2022年1月からはE・H・カー『歴史とは何か』(岩波新書)に取りかかり、同年9月に終了している。ここでは『歴史とは何か』の読後感を述べてみたい。

イギリスの歴史家E・H・カーの本書はいうまでもなく歴史研究入門の古典中の古典である。わたしが本書を読んだのは大学入学後まもない時期であった。正確な時期や印象などについては記憶がおぼろになっているが、学部学生の一年生の時に読んだときは、一通り分かったような気がしたことは覚えている。それでも、「歴史は現在と過去の対話だ」という有名な言葉はその後も私の頭の片隅に残っていた。本書は講演がもとになっているので、語り口の平易さもあって、一通り分かった気になっていた。今回研究会でテキストとして講読したときには、かつての理解が実のところはきわめて不完全なもので、若い頃の理解はずいぶん「浅い」ものだったなと痛感させられた。

本書の具体的内容についてここで立ち入ることはできないが、わたしの心に強い印象として残っているのは、筆者のカーは高名な歴史家ではあるが、狭い歴史学の枠に収まることなく、歴史研究の枠をはみ出すような社会科学や哲学などさまざまな学問分野への言及が本書のあちこちでなされていることに驚きを禁じ得なかった。特に私の専門である社会学にも造詣が深いことが行間から読み取れ、自己の狭い専門以外の領域についても目配りがなされていることに感銘を受けた。
最後に、本書の読後感としてどうしてもここで皆様にお伝えしたいことがある。それは本書が一見一般読者向けの歴史学の入門書のように思われるかもしれないが、今回じっくり読み込んでみて「これは意外に難解で手ごわい」という思いをさせられたということである。たとえば、「歴史的事実とは何か」というテーマ一つをとってみても、きわめて深い考察がなされており、読めば読むほど「何が歴史的事実なのか」がわからなくなってしまうのである。というわけで、ご関心のある向きには是非一読されることをお勧めしたい。

【文責:村井忠政】