「大衆社会論研究会」活動報告

2021年度「大衆社会論研究会」活動報告

大衆社会論研究会はオンライン研究会を2020年5月に立ち上げた。メンバーは村井忠政(ホスト)の他、黒川伸也、藤井洋一郎、川瀬智弘、牧真吾である。月1回の例会では、各会員が順番に報告担当者を務め、レジュメをもとに報告、その後全員による討論という形式をとっている。

これまでに使用したテキストは、オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』(ちくま学芸文庫)、F・パッペンハイム『近代人の疎外』(岩波新書)、宇野重規『保守主義とは何か――反フランス革命から現代日本まで』(中公新書)である。2022年1月からはE・H・カー『歴史とは何か』(岩波新書)に取りかかる予定である。(文責:村井忠政)

(オンライン)大衆社会論研究会【第2回】

大衆社会論への招待
【第2回】群集の時代か、それとも公衆の時代か
-ル・ボンとタルドにおける見解の対立-

群集の時代の到来を予言したル・ボン

第1回では大衆社会論への入門的ガイダンスを行いましたが、第2回からは、いよいよ大衆社会論の主役たちが登場します。スペインの哲学者オルテガは、20世紀初頭に刊行された『大衆の反逆』(1930)のなかで、20世紀は「大衆の時代」であると断言しました。実をいいますと、二人のフランスの学者が、オルテガより先に20世紀が19世紀とは異質な社会形態になると予測していたのです。その二人のフランス人学者というのは、社会心理学者のギュスターヴ・ル・ボンと、社会学者のガブリエル・タルドです。今回の議論は、この二人の研究者の見解の対立をめぐって展開されることになります。
そのうちのひとり、群集心理の研究で知られるル・ボンは、19世紀末に刊行された『群衆心理』(1895)のなかで、ヨーロッパにおいて19世紀末から20世紀初頭にかけて、民衆階級の政治的進出がめざましく、その勢力が時々刻々に増大しつつある事実を踏まえて、いまわれわれが歩み入ろうとしている新しい時代は、「群集の時代」になると予言し、つぎのように述べていたのです。

>>大衆社会論への招待 第2回 群集の時代か、それとも公衆の時代かール・ボンとタルドにおける見解の対立ー
※PDFでご覧になれます。

オンライン学習サークル参加・興味のある方はお問い合わせください。

(オンライン)大衆社会論研究会

(オンライン)大衆社会論研究会 村井忠政(名古屋市立大学名誉教授)

はじめに
新型コロナウィルスの世界的感染拡大という未曽有の事態に直面し、全国の大学で対面式授業に代わるものとしてオンラインでの授業が一斉に始められました。名古屋市立大学でも、2020年度以降の授業はZOOMによるオンライン授業という形式を取ることになったのはみなさまご案内の通りです。

「市民学びの会」としては、会員の皆様の大半が高齢者であること、また狭いセミナー室での「三密」を避けにくい状態での活動であることに鑑み、対面での活動をこれまで自粛してまいりました。しかしながら、コロナ感染拡大がなかなか収束に向かう気配がないため、このままいっさいの活動を停止しているよりは、「市民学びの会」としてもZOOMによる研究会・読書会を立ち上げてみたらどうかとの声が出たことで、いくつかのサークルがZOOMでの活動をはじめました。

慣れないオンラインでの研究会ということで、正直なところ、当初は技術面や運営面での不安や戸惑いがありましたし、実際なかなかスムーズな立ち上げというわけにはいかなかったというのが実情でした。それでも、「習うより慣れよ」のことわざ通り、その後の試行錯誤を経て現在では何とかまがりなりにも活動を続けております。

>>大衆社会論への招待 第 1 回 大衆社会論とはどのような学問なのか
※PDFでご覧になれます。

オンライン学習サークル参加・興味のある方はお問い合わせください。

オンライン研究会(仮称:大衆社会研究会)

村井忠政名誉教授からの連絡

既存のサークルとは別に、学びの会のメンバーの一部有志によるオンライン研究会(仮称:大衆社会研究会)が立ち上げられ、59日(土)の午前1000から1200まで、第1回の研究会が開催されました。

ZOOMのホスト役を勤められたのは川瀬会員で、第1回の報告担当は村井でした。参加予定者は7名でしたが、実際に参加されたのは5名でした。

使用テキストは、オルテガ・イ・ガセット著/神吉敬三訳『大衆の反逆』ちくま学芸文庫(1995年初版)です。

1回例会では、同書の第1部第1章「充満の事実」および第2章「歴史的水準の向上」について議論することになりました、

報告者(村井)が事前に用意したレジュメをあらかじめ参加予定者に添付ファイルで送り届け、それを各自がプリントアウトしたものを参照しながら議論を進めるという形式でした。難解な箇所(特にオルテガの「大衆」の定義は大変分かりづらく、誤解を招く恐れがあります)もいくつかありましたが、何とかまとめました。 

本書を今日取り上げる意義について。

本書は1930年にスペインの哲学者オルテガが刊行したもので、100年近くも前に今日の高度大衆社会の危機を予見したことで

欧米先進国で注目され、わが国でも保守派論客として活躍された故西部邁氏がオルテガを紹介されたことで広く知られるところとなったわけです。現在もその後を継ぐ研究者としては、たとえば政治学者の中島岳志(東工大教授)がおられます。 

昨年(20019年)2月には、NHK教育テレビの講座「100de 名著」で「オルテガ 大衆の反逆」が取り上げられ、中島岳志教授が講師を務め4回にわたり放映されました。このテキストの中で中島さんは次のように述べています。「著者のオルテガは、20世紀を生きたスペインの哲学者で思想家ですが、彼は本書の中で、『大衆が社会的中枢に躍り出た時代』にあって民主主義が暴走するという『超民主主義』の状況を強く危惧しています。そして、それと対置する概念として『自由主義=リベラル』を擁護しました。(中略)彼が言う『リベラル』とは、自分と異なる他者と共存しようとする冷静さ、あるいは寛容さといったものです。『大衆』が支配する時代においては、そうした姿勢が失われつつあるのではないかというのが、オルテガの指摘でした」。まさに今日の日本こそオルテガの危惧した「大衆社会」状況になっていると言えるのではないでしょうか。 

ご関心のある向きには是非参加していただきたいと思います。